第2編 物権:物に関して
第二編 物権
第8章 先取特権:優先的に支払ってもらえる権利
第八章 先取特権
第2編 第9章 質権:貸す代わりに何かを預かる権利
第2編 第7章 留置権:払うまで返さない権利
第1節 この章全体に言えること
第一節 総則
先取特権とは
- 第303条
- “支払いを待つ人”が何人かいても、この法律やその他の法律の規定に従えば、“支払いをしなければならない人”の財産から優先的に支払いを受けられる権利のことを《先取特権》といいます。
優先的に支払いを受けられる権利を持つ人のことを《先取特権者》といいます。
原文
代わりの金や物で払ってもらおうじゃないの
- 第304条
-
先取りする予定の“もの”が、売られたり、貸し出されたり、失われたり、壊されたりしたために、お金や他の物に姿を変えたとしても、先取特権は効力を失いません。
ただし、そのお金や代わりの物が債務者の手に渡る前に、先取特権者は差押えをしなければなりません。 - 2
- 担保となる“もの”にかけられた他の権利(地役権や永小作権)から得られたお金についても、先取特権は効力を失いませんし、債務者の手に入る前に差押えをしないといけません。
担保の代わりの“もの”で支払ってもらうことを《物上代位》といいます。
原文
先取特権も小分けの必要はありません
- 第305条
- 第296条で《留置権》がそうであったように《先取特権》についても、待っている支払いの内の一部を支払ってもらったとしても、その分の先取特権が消えるわけではなく、全額の支払いが終わらない限り先取特権もなくなりません。
原文
第2節 先取特権の三つの種類
第二節 先取特権の種類
第1款 何より優先される先取特権
第一款 一般の先取特権
一般の先取特権
- 第306条
- 色々な所から借金をしている人は、まず次の原因の借金から支払いをすることとなっています。
- 一
- 《共益の費用》債務者から取り立てをする上で債権者たち全員のために必要とする経費
- 二
- 《雇用関係》債務者に雇われている人たちへの給与支払
- 三
- 《葬式の費用》亡くなられた債務者の葬式費用
- 四
- 《日用品の供給》債務者が生活する上で必要な日用品の費用
原文
《共益費用》をまず支払え!
- 第307条
- 債務者の財産が目減りさせることがないようにしたり、精算や配当をすることにより、取り立てをする上で債務者たち全員のために必要とする経費は、他の債権に先立って取り立てすることが認められます。
- 2
- 債権者の一部の人たちのため必要として使われた費用は、その一部の人たちに対して、他の債権に先立って取り立てをすることが認められます。
原文
給料をさっさと払え!
- 第308条
- 社員や雇っている人たちに支払うべき給料や手当などは他の債権に先立って取り立てをすることが認められます。
原文
葬式の費用はきちんと払え!
- 第309条
- 債務者が不幸にも亡くなられてしまった場合、その葬式の費用として適当な額については他の債権に先立って取り立てをすることが認められます。
- 2
- 債務者の扶養家族が不幸にも亡くなられてしまった場合も、その葬式の費用として適当な額については他の債権に先立って取り立てをすることが認められます。
原文
生活必需品ぐらいは払ってもいいよ!
- 第310条
- 債務者や債務者が扶養家族、あるいはその家に住み込みで働くお手伝いさんらの半年分の生活必需費である、食費や水道・ガス・電気代については、他の債権に先立って取り立てをすることが認められます。
原文
第2款 売買代金に関する先取特権
第二款 動産の先取特権
商品などの金目のものを売った時の先取特権
- 第311条
- 以下の項目に関わる代金の支払いが滞ったら、それに関わる金目のものや、それを売って得た代金は、優先的に代金として支払われるように取り計らうことが認められます。
- 一
- 家賃
- 二
- 宿泊費
- 三
- 交通費と荷物の送料
- 四
- 金目のものの維持費
- 五
- 金目のものを売った代金
- 六
- 農家に売った種や苗、肥料、蚕や餌の桑などの代金
- 七
- 農務作業をしてくれた人への賃金
- 八
- 工場作業をしてくれた人への賃金
原文
大家さんの先取特権
- 第312条
- 土地や建物を貸している大家さんに家賃が支払えない時は、貸している土地や建物にある“金目のもの”から他の債権に先立って取り立てをすることが認められます。
原文
大家さんに支払ってもらえる“金目のもの”の範囲
- 第313条
- 土地を貸している大家さんへの支払いに当てらえる“金目のもの”とは、「土地やその土地に建つ建物などに置かれた“金目のもの”」と「その土地で新たに作り出された“金目のもの”」です。
- 2
- 建物を貸している大家さんへの支払いに当てられる“金目のもの”とは、「賃貸人の部屋にある持ち物」のことです。
原文
- 第314条
-
部屋や建物を又貸ししたり借りる権利を別の人に譲ってしまった場合は、“又貸ししてもらった人”や“権利を譲ってもらった人”の「部屋においてある持ち物」も大家さんへの支払いに当てらえる“金目のもの”にあたります。
さらにこれらの人たちから“又貸ししている人”や“権利を譲った人”に支払われる「家賃や権利金」についても大家さんへの支払いに当てられます。
原文
破産して家賃が払えないと
- 第315条
-
建物や部屋を借りている人が破産状態で家賃が払えない時には、大家さんには一定額の家賃などの費用について財産の精算の際に他の債権に先立って取り立てることが認められます。
認められるのは、月極であれば「先月分と今月分そして来月分の家賃やそれに付属する費用」と、「先月と今月に発生した損害賠償」の分の金額です。
月極ではなければ、該当するその期に合わせて、月を期に読み替えてください。
原文
- 第316条
-
大家さんが敷金を預かっている場合には、まず敷金から未払金を清算し、なお未払金がある場合のみ他の債権に先立って取り立てをすることが認められます。
敷金について詳しくは、第622条の2第1項に規定されています。
原文
宿泊代が払えないと
- 第317条
- 宿泊費や宿泊先での飲食代が支払えないときには、他の債権に先立って、お客の手荷物を宿泊費代わりに取り立てをすることが認められます。
原文
交通費が払えないと
- 第318条
- 乗り物を利用した時の交通費や荷物代が払えない時は、運んでいる荷物を代金の代わりに他の債権に先立って取り立てをすることが認められます。
原文
先取特権の“金目のもの”
原文
動産の維持費などは先に支払ってください
- 第320条
- お金を払えない人が、やむなく土地や建物といった不動産以外の“もの”で支払いをしようという場合、その支払いに先立って、“もの”の維持費・登記などの費用・ものをお金に変えるためにがかかった経費などは、清算をしてから本体の支払いをすることになっています。
原文
動産を売って支払ってください
- 第321条
- お金を払えない人が、やむなく土地や建物といった不動産以外の“もの”で支払いをしようという場合、その“もの”本体を売った代金と利息を清算をして支払いをすることになっています。
原文
種や肥料代は収穫物で支払ってください
- 第322条
- 農業経営者の方に種や苗あるいは肥料の代金を払ってもらえない場合は、そのための利息も含めて、彼の農場でその種や苗あるいは肥料を使って1年の間に収穫した作物の代金で優先して支払ってもらうこととなります。
原文
農作業の賃金は収穫物の代金で支払いってください
- 第323条
- 農作業の賃金を支払ってもらえない場合は、働いていた最後の1年の間に収穫した作物の代金で優先して支払ってもらうこととなります。
原文
工場作業の賃金は製造した産品の代金で支払ってください
- 第324条
- 工場作業の賃金を支払ってもらえない場合は、働いていた最後の3ヶ月の間に製造した産品の代金で優先して支払ってもらってください。
原文
第3款 不動産がらみの先取特権
第三款 不動産の先取特権
不動産の先取特権
- 第325条
- 色々な所から借金をしている人は、土地や建物あるいはその売却代金は、次の支払いを優先的にすることとなっています。
- 一
- 土地や建物の維持・補修費
- 二
- 土地の造成工事費や建物の建築費
- 三
- 土地や建物を売却費
原文
不動産の維持・補修費の先取特権
- 第326条
- 土地や建物の維持・補修の費用や、土地や建物の権利取得あるいは各種登記にかかる費用は、その土地や建物を売ったお金から優先的に支払いを受けることが認められます。
原文
工事による付加価値についての先取特権
- 第327条
- 土地や建物の工事のための設計・施工・管理をした人に、ちゃんと代金が支払われない場合は、その不動産を優先的に差し押さえることが認められます。
- 2
- この特権は、もともとその土地や建物にあった価値を差押えられるわけではなくて、工事を行ったことによる付加価値の分を差押えられることとします。
原文
不動産売買の先取特権
- 第328条
- 不動産を買った人がその代金を支払わない場合は、その不動産を差押えて代金と利息分を回収することが認められます。
原文
第3節 どちらへ先に支払うべきか
第三節 先取特権の順位
最優先の支払いの順序
- 第329条
- 一般の優先支払いが認められた者同士の場合、どちらが先に支払ってもらえるかは、一般の先取特権の順位と同じく、《共益の費用》→《雇用関係》→《葬式の費用》→《日用品の供給》という順序となります。
- 2
- 一般の優先支払いが認められた者とそれ以外の優先支払いが認められた者との間で、どちらが先に支払ってもらえるかは、《共益の費用》の支払いが最優先となり、続いて一般以外の支払い、最後が《共益の費用》以外の支払いの順となります。
原文
動産の先取特権の順序
- 第330条
-
不動産以外のものに関して、返済や支払いが滞ってあちこちからそれを差し押さえられる自体になった場合、どちらの支払先が優先されるのかは、以下に記載されている順序の通りです。
第二項の場合で、「最近行った維持・補修の費用」と「それ以前に行った維持・補修の費用」の両方の支払いが滞っている場合、優先権があるのは先に行った方ではなく、最近行った方に優先権があります。 - 一
- 家賃・宿泊代・交通費に関する先取特権
- 二
- モノの維持・補修費に関する先取り特権
- 三
- モノの代金、種や肥料の代金、農作業の賃金、工場作業の賃金に関する先取特権
- 2
- もともと支払いが滞っている相手だと承知で取引した場合は、先取特権が認められるケースでも、それより先にあった支払いの先取特権が優先します。
- 3
- 実った農作物で支払いを受ける場合は、「農作業の賃金」「種や肥料の代金」「田んぼや畑を貸した代金」の順序となります。
原文
不動産の先取特権の順序
- 第331条
- 不動産に関して、返済や支払いが滞ってあちこちからそれを差し押さえられる自体になった場合、どちらの支払先が優先されるのかは、不動産の先取特権と同じく、土地や建物の維持・補修費→土地の造成工事費や建物の建築費→土地や建物の売却費、という順番とします。
- 2
- ある不動産が売り手から最初の買い手へ、その買い手から次の買い手へ…と売買が繰り返された場合、最初の買い手も次の買い手もいずれもお金の支払いが滞った場合、その土地を優先的に差押えが認められるのは最初の土地の売り手→最初の買い手→次の買い手…という順番とします。
原文
優先権が同じなら
- 第332条
- あちこちで優先順位が対等の支払が滞っている場合、どこか一箇所だけが優先的に支払いを受けられるわけではなく、それぞれの借金の額の比率に応じた分だけ支払ってもらえることになります。
原文
第四節 先取りができる場合とは
第四節 先取特権の効力
ものがなければ先取りできない
- 第333条
- 先取特権の対象となる“もの”が手もとになければ、先取特権は使えません。
原文
先取特権vs動産の質権
- 第334条
-
第9章で規定する《動産の質権》と先取特権が競合する場合の順位は、次の通りです。
- 動産の質権 = 家賃・宿泊代・交通費に関する先取特権
- 動産の質権 > モノの維持・補修費に関する先取特権
- 動産の質権 > モノの代金、種や肥料の代金、農作業の賃金、工場作業の賃金に関する先取特権
原文
一般の先取特権で不動産まで処分しろというまでには
- 第335条
-
一般の先取特権(共益の費用や雇用関係・葬式費用・日用品代)からといって何でも差し押さえができるというわけではありません。
まず不動産以外の財産を処分したお金で支払ってもらい、それが不足する場合は不動産を処分したお金で支払ってもらうこととします。 - 2
-
一般の先取特権で不動産を処分して支払いをしてもらえるからといって、いくつもある不動産のどれでも好きな物件を差し押さえができるというわけではありません。
まず担保や質権のついていない不動産を処分することとします。 - 3
- 不動産以外の財産を処分して支払いを受けそびれたり、担保や質権のついていない不動産を処分して支払いを受けそびれたら、持ち主が借金をした人から別の人に変わったことが登記された不動産を処分してまで支払えということは、たとえ先取り特権を持っていた人であっても、もはやそれは認められません。
- 4
- そうはいっても、あえて「先に不動産を売って支払いする」となった場合や、「先に担保や質権がついている不動産を売って支払いをする」ことで話しがまとまった場合については、無理に前の三項の規定をあてはめる必要はありません。
原文
一般の先取特権はどこまで差押えができるのか
- 第336条
-
担保や質権がついていない不動産であれば、たとえ登記をおえていなくても一般の先取特権により不動産を差押えが可能です。
しかし、持ち主が借金をした人から別の人に変更の登記をした不動産までは差押えできません。
原文
不動産の維持・補修をしたら登記しましょう
- 第337条
- 維持・補修の工事が終わったらすぐ登記をしないと、不動産の維持・補修費の先取特権があることを認めてもらえなくなることがあります。
この場合は、「不動産保存の先取特権保存」という登記をします。
原文
工事をする前には登記をしておきましょう
- 第338条
-
工事を始める前までに工事費用予算を登記しておかないと、工事のおかげで高まった価値についての先取特権を認めてもらえなくなることがあります。
もし実際の工事費が予算を超えてしまった場合は、その超えた額は登記に記載されていませんので、先取特権は認められません。 - 2
- 不動産を売ったお金で優先的に工事費用を支払ってもらおうと思ったら、工事を行ったことによる付加価値を裁判所が選任した鑑定人に評価してもらう必要があります。
この場合は、「不動産工事の先取特権保存」という登記をします。
原文
保存登記や工事の登記をしておけば
- 第339条
- 不動産の維持や工事のための登記をしたら、先取特権によって他の人の抵当権よりも優先的に支払いを受けることができます。
原文
先払いで不動産を売買したら登記をしましょう
- 第340条
- 先払いで不動産の売買をしても、同時に「売買の代金と利息の支払いはまだ終わっていない」ということを登記しないと、不動産売買の先取特権が認めてもらえなくなることがあります。
この場合は、「不動産売買の先取特権保存」という登記をします。
原文
抵当権に関する規定と同じように
- 第341条
- 先取特権によってどうなるかということは、先取特権には当てはめるのは無理がある場合は別にして、この節の規定の他に《抵当権》に関する規定も同じように適用することとします。
原文
第2編 第9章 質権:貸す代わりに何かを預かる権利
第2編 第7章 留置権:払うまで返さない権利
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